Story

倉敷成人病センター院長

安藤 正明

ピラミッドのてっぺんにいる人間は、

他の追随を許してはいけない

婦人科悪性腫瘍の腹腔鏡手術を日本で確立したパイオニアの一人、現在も年間800件以上を執刀する産婦人科医であり、倉敷成人病センター院長の安藤正明医師にお話を伺います。

安藤先生が医師として持ち続けている“こだわり”を教えていただけますか?

私は外科系なので、(自分の)技術はできる限り最高の水準を保つべきです。それが一番大きな“こだわり”と言えるかもしれません。

この取材の直前までオペに入られていたとお聞きしています。現在は院長という立場ですが、オペに入る回数は減ってはいないのでしょうか?

今のところ、ぜんぜん減ってはいないですね。いろいろなタイプの病院があると思うのですが、ウチは特殊な手術が多いので。こういうところで全体の技術力を上げていくために、ピラミッドのてっぺんにいる人間は他の追随を許してはいけないんです。走り続けるから着いて来い、と。そういう意識です。

“背中で示す”ということですね。

そう言い換えると、カッコいいですね(笑)。でも、自分が立場上トップに立つ以上は、自分の技術もトップじゃないといけないとは、いつも思っています。

技術力はどのように維持・向上されているのでしょうか?

腹腔鏡手術の技術力というのは正確な手術操作に裏打ちされるものですから、解剖の知識も必須ですが、いかに手をスムーズに動かすかが勝負ですね。私は自宅にも腹腔鏡のトレーニングボックスを設置し、そこに腹腔鏡の鉗子を2本突っ込んであるんです。そこで、糸結びを毎朝、何十回と練習します。
それをしないと、その日の手術もなんとなくスムーズに動かないような気がするんです。野球の素振りみたいなものでしょうか。

トップ選手兼監督でも、素振りは欠かさないんですね。

やっぱり、練習していないと劣化するものなんですよ。私はギターなんかも弾くのですがね、数日触らないともう同じようには弾けない。技術というのは常に手を動かしていないとダメなんです。

トップに立ってなお研鑽を積み続けるというのは、大変ではありませんか?

自分の意志でやっているので、逆に、やってないと気持ちが悪いですね。 私は腹腔鏡手術を43歳の時に始めたので、人よりもスタートがかなり遅いんです。それから18年くらい続けていますが、やっぱり、人より綺麗な手術をしようとしたら、努力を怠ってはいけないと思っています。

ちなみに、ギターの方もずっと?

ギターはもう50年くらい、半世紀弾いていますが、これはやったりやらなかったりです(笑)。でも、今はプロのジャズ・ギタリストに師事し、週1回夜の22時頃から、息抜きを兼ねてレッスンを受けています。

安藤先生の向学心は、どこから来ているのですか?

日本は世界的に見ても、婦人科系がんの手術がすごく遅れています。例えば、大腸がんや胃がんの手術を内視鏡で行うのはすでに当たり前ですが、婦人科は2年前に初めて一部について認められました。日本の婦人科だけがガラパゴス島状態になっていると感じています。これはなんとかしないといけない。この状況は患者さんのためにならないので。

新しいことを取り入れることに、抵抗はありませんか?

私自身は、本来はコンサーバティブな人間なんですよ(笑)。でも、一度走りだすともうそればっかりになって、やる以上は中途半端はイヤ。自分がやっていることは、通常のレベルを少し越えたところでやりたいんです。

婦人科医としてのキャリアは30年を超えていらっしゃいます。安藤先生はなぜ、医師という仕事を続けられたのですか?

患者さんが喜んでくれるのが、何よりうれしいですよね。がんの患者さんの回復がこっちがびっくりするほど早いとか。また、私の施設で、国内初の子宮がん温存手術をしたのですが、そうするとこれまでだったら妊娠・出産ができなかったはずの患者さんが、子供と旦那さんを連れて来てくれることもあります。そういうときは、やっぱり医師をしていてよかったと思いますね。

ここまで安藤先生の “こだわり”についてお聞きしてきましたが、白衣についてはいかがでしょうか?

なかなか難しい質問ですね(笑)。自分にとってどうかというよりは、患者さんにとってどうかが大事だと思います。私も院内では基本的には白衣を着ています。というのも、患者さんから見れば、よく知らない人にあれこれ診察されるわけですよね。ビジネスの場で、ノーネクタイの人が商談の場に来たら、信頼が損なわれるのではないでしょうか。白衣には威圧感があるかもしれませんが、信頼を得るためにしょうがない部分もあります。医療行為をスムーズにするのは、双方にメリットです。

安藤先生が白衣を選ぶポイントはどこですか?

ウチの婦人科はみんなクラシコの白衣を着ているのですが、以前はペラペラの白衣だったので、何日か着るとすぐによれよれになってしまっていたんです。それではやっぱり、患者さんに不快感を与えますし、また、信用されないんじゃないかな、と。ピシッとしている方が着ている医師も、患者さんも気持ちがいい。クラシコの白衣は型くずれしないのがうれしいですね。

安藤 正明医師 Masaaki Ando

自治医科大学卒業。内科医として僻地診療に従事した後、1986年に倉敷成人病センター産婦人科入局。2001年に同院産婦人科部長就任、2009年に副院長就任、2015年に院長に就任。西安交通大学医学院客員教授、上海复旦大学(Fudan University)客員教授、日本産科婦人科手術学会理事、日本婦人科腫瘍学会評議員などを兼務する。

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